ブルームバーグNEFの「エネルギー移行に伴う金属の長期見通し」の創刊では、移行技術に用いられる主要金属の市場規模は2050年までに3倍に増大と予想[1]
ニューヨーク、2023年1月18日ー太陽光、風力、蓄電池、電気自動車などのエネルギー移行技術の進展に欠かせない主要金属の需要は、2050年までに5倍に増大することがブルームバーグNEFのいわゆる「ネットゼロ・シナリオ」で予想されています。一方、供給側は、投資不足、鉱業に対するカントリーリスクの増大、埋蔵量の枯渇深刻化などの制約を受けています。
新規鉱業プロジェクトの開発において、カントリーリスクは長い間大きな障壁となっています。世界経済が減速していることに加え、各国が主要金属の供給を確保する必要があることから、資源ナショナリズムが復活し、資源税が引き上げられています。こうした各国政府による介入は、新規鉱山に対する投資の減速につながっています。エネルギー移行における主要金属の重要性を踏まえ、各国政府はその国の経済における当面のニーズを満たすことと、世界のネットゼロの将来という長期的野心との間でバランスを取る必要があります。
BNEFの金属・鉱業部門責任者かつ本リポート主要執筆者、クワシ・アムポフォの見解:「エネルギー移行で、原材料にスポットライトが当たっている。これはチャンスであると同時に責任も生じてくる。責任ある鉱業によって、この需要を満たすための資源採掘を支えなければならない。鉱業はエネルギー移行の基盤であり、まずは鉱業業界自体が脱炭素化をすることで、移行を先導していく必要がある」
エネルギー移行に伴い、化石燃料を用いる火力発電技術に使用される原材料は今後減少していきます。BNEFの経済移行シナリオは、2050年には石炭や天然ガスといった化石燃料を用いる火力発電所からの金属需要は、発電分野における需要全体の6%未満になると示しています。足元では2022年に約16%だったことを踏まえると、低減することになります。一方で、再生可能エネルギーおよび蓄電池における金属消費量は、2050年までに2倍以上に増加すると予測しています。
BNEFの金属・鉱業アナリスト、ユーチェン・フオの見解:「化石燃料技術に使用される金属の見通しは弱気だが、一方でエネルギー移行は金属・鉱業界にとってスーパーサイクルをもたらす可能性がある。このスーパーサイクルはクリーンエネルギー技術の大規模な拡大がきっかけとなって起こり、必要不可欠な金属と従来の金属双方の需要増大に拍車をかけるだろう」
図1:エネルギー移行に伴う各種金属の需要推移(金額および量、2022年と2050年の比較)
出所:ブルームバーグNEF。注:ETSは経済移行シナリオ(economic transition scenario)、NZSはネットゼロ・シナリオ(net zero scenario)。エネルギー移行には、発電、蓄電池、送電網、運輸の各セクターが含まれます。金属量の外側にある円の大きさは、各種金属の需要全体に占めるエネルギー移行のシェアを表します。2050年の需要額は、各種金属の過去10年間における平均価格に基づきます。2050年の名目金額は、年率2.75%で割り引いて算出されており、この割引率は需要が集中する主要経済国の平均値と同等水準となっています。
エネルギー移行には原材料の採掘への多大な投資が必要となります。しかしながら、これと同時に、鉱業に対する投資家の信頼は低迷しつつあります。信頼が失われている背景には、昨今の市場変動や新規鉱山開発の複雑性といった、互いに関連し合うさまざまな要因があります。企業が資本調達の障壁を乗り越えるための有望な道筋の一つとして、ESGパフォーマンスの向上が挙げられます。これを実現することで、企業は資本市場において差別化を図ることができるでしょう。
BNEFのコモディティー・エネルギー・環境市場部門グローバル責任者、アシシュ・セティアの見解:「鉱業は、供給を増やすこと、コストを抑えること、環境負荷と排出量を削減することという三つの課題を抱えている。これはまるでルービックキューブを解くようなもので、簡単にはいかないが、不可能なわけではない」
[1] *過去10年間の平均価格に基づく