【ニューヨーク、2024年12月10日】バッテリー価格は今年、2017年以降で年間としては最大の下落幅を記録しました。ブルームバーグのリサーチ部門であるブルームバーグNEF(BNEF)の分析によると、リチウムイオン電池パックの価格は2023年から20%下落し、1キロワット時(kWh)当たり115ドルと過去最低となりました。この価格下落の要因としては、セルの過剰生産能力、規模の経済、安価な金属および部品、低コストのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の普及、電気自動車の販売の減速などが挙げられます。1kWh当たり115ドルというこの水準は世界の平均価格で、国や用途によって価格が大きく異なってきます。
過去2年間、電池メーカーは電気自動車(EV)および定置用蓄電池の需要の急増を見込み、積極的に生産能力を拡大してきました。現在、過剰な設備投資が多く見られ、世界で稼働する電池セルの生産能力は3.1テラワット時(TWh)に達しています。BNEFによると、これは2024年におけるリチウムイオン電池需要の2.5倍以上に相当します。全部門での需要は前年比では増加となっていますが、電池需要の最大けん引役であるEV市場は近年に比べると緩やかな成長となっています。一方で、定置用蓄電池市場は拡大中で、特に中国ではセルおよびシステムを提供する企業間で激しい競争が起きています。
BNEFの電池技術チーム部門長兼本リポート執筆責任者、エヴァリーナ・ストイコウの見解は次の通り:「今年の電池セルの価格低下は、電池用金属価格に比べると大きなもので、電池メーカーの利益率が圧迫されていることを示している。小規模メーカーは、市場シェア獲得のためにセル価格を引き下げるという特有の圧力に直面している」
図1:2013-2024年リチウムイオン電池パックとセルの加重平均価格
出所:ブルームバーグNEF。注:過去調査価格は、2024年の実質ドル表示。加重平均調査値には、乗用車、バス、商業用自動車、定置用蓄電池システムの343のデータポイントが含まれる。
上図の数値は、電気自動車、バス、定置用蓄電池を含む、さまざまなバッテリー用途の平均を示しています。バッテリー式電気自動車(BEV)向けの価格は1kWh当たり97ドルとなり、初めて1kWh当たり100ドルを下回りました。中国ではEVの価格は内燃機関車と同水準になりましたが、多くの市場では依然、似た仕様の内燃機関車よりも高価です。BNEFでは、中国以外でも低コストの電池の普及がさらに進む中、今後数年間でより多くの分野で価格水準の収れんがみられると考えます。
地域別に見ると、中国の電池パック価格が最も安く、1kWh当たり94ドルでした。米国と欧州の電池パック価格は、全世界平均価格よりもそれぞれ31%、48%高く、これらの市場が相対的に成熟度が低いことに加え、高い生産コストと低生産量を反映していると見られます。中国と北米・欧州の価格差は、過去数年の水準を上回っており、価格下落が中国でさらに強まっていることが示唆されます。中国企業は今年、激しい競争に直面してきました。こうした状況が電池価格の下落や電池事業の利益率の低下をもたらし、多くの電池メーカーは定置用蓄電池システムを含む新規市場に参入を余儀なくされる一方で、より高価に電池調達が行われる海外市場に目を向けています。
また、原材料価格の低下の恩恵も受けてきました。しかし地政学的緊張の高まり、電池用金属に課される関税、価格低下によって、新規の採掘・精製プロジェクトが失速し、今後数年間は原材料価格が上昇する可能性があります。
BNEF蓄電池分析部門長、ヤヨイ・セキネの見解は次の通り:「今注目している点は、電池製品に課される新しい関税がいかに価格設定のダイナミックスをゆがめ、最終製品への需要の鈍化をもたらすかということだ。いずれにせよ、LFPの普及や継続していく市場競争、技術また原材料処理、製造面の改善が進むことで、電池価格の下落へと圧力をかけるだろう」
BNEFの短期的な見通しでは、2025年にはパック価格は1kWh当たり3ドル下落するとみています。今後も研究開発への継続的な投資、製造プロセスの改善、サプライチェーン全体の生産能力の拡大は、向こう10年間における電池技術の向上と価格のさらなる低減に寄与すると考えられます。さらに、シリコンやリチウム金属アノード、固体電解質、新カソード材料、新たなセル製造プロセスなどの次世代技術が、今後10年間で一層の価格低減の実現に重要な役割を果たすとみています。
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