電気炉は、日本のグリーンスチール政策下で鉄鋼業界の排出削減を実現する有効な手段に
【2025年12月5日（東京）】日本が2050年のネットゼロ目標を達成するためには、石炭に依存する鉄鋼生産からの温室効果ガス排出削減が重要です。国内排出量の約13%を占める日本の鉄鋼業界は、国内需要の減少と国際競争の激化により構造的・経済的な圧力に直面しています。ブルームバーグNEF（BNEF）の最新レポート『日本の鉄鋼業界の脱炭素化：経済性と今後の道筋』によると、日本が気候変動目標の達成軌道を維持しつつコスト競争力を維持するには、技術革新と政策を通じて、鉄鋼生産におけるあらゆる低排出の選択肢を最大限に活用する必要があります。本レポートは、東京製鐵株式会社の資金提供を受けて作成されたものです。
インセンティブやカーボン価格設定などの政策措置は、日本における低炭素鋼技術の発展を加速させる一助となり得ます。BNEFの鉄鋼生産の平準化コスト分析によれば、カーボン価格が導入されていない状況では、国内の既存で減価償却済みの高炉－転炉法（BF-BOF）が日本で最も安価な鉄鋼生産の方法です。しかし2030年までに、再生可能エネルギーで稼働するスクラップベースの電気炉（EAF）では、1トン当たり約720ドル（2024年実質価格）で鉄鋼生産ができる見通しです。この生産方法ではBF-BOFより18％多くコストがかかりますが、排出物は発生しません。一方、水素利用や二酸化炭素回収・貯留（CCS）に依存する方法は、2030年時点で鋼材1トン当たり1,000ドル超と依然として高コストであり、日本がネットゼロ達成を目指す2050年までにコスト競争力を獲得することはありません。
低排出鋼の製造手法の多くがまだ研究開発段階にある中で、日本は既存のスクラップ電気炉の稼働率を最大化することで、鉄鋼部門の排出量削減を直ちに進めることができます。BNEFの分析では、これは現時点で日本における最も経済的な低排出鋼の製造手法の一つです。政府が現在輸出されているスクラップ量を国内の鉄鋼業界に振り向ける政策を導入することで、さらなる支援が可能となります。BNEFの分析によると、2023年に日本が輸出した690万トンのスクラップ鉄を国内で活用すれば、1トンの鉄を生産するのに1.2トンのスクラップを使用すると仮定して、580万トンの低炭素電気炉鋼を生産できます。この場合、日本は直接的なCO₂排出量を980万トン回避できる可能性があり、これは2024年における鉄鋼業界のスコープ1および2排出量の約7％に相当します（図2）。さらに、スクラップ電気炉プロセスをクリーン電力で稼働させれば、追加で1,390万トンのCO₂を削減でき、合計で最大2,370万トンの排出量削減が可能となります。
低排出鋼の定義を明確化することは、国内の鉄鋼メーカーに対し脱炭素化の必要性と基準達成に向けた手順を示す強いシグナルとなります。日本においては業界全体で統一された「グリーンスチール」の定義を確立することで、全メーカー間で基準の一貫性を確保できる利点があります。
BNEFアナリストでレポート著者のサディク・ウメルのコメント：
「実際に測定可能な排出削減に基づくグリーンスチール基準は、生産者と購入者の双方にとって有益です。また、採用されたグリーンスチール基準は、技術の進歩を踏まえて時間の経過とともに発展していく可能性を秘めています。」
さらに、日本のグリーンスチール推進には、長期的なインフラおよびサプライチェーンの計画が必要です。低コストかつ安定した低排出電力の供給を確保し、十分な鉄鋼スクラップのリサイクル基盤、新たな低炭素鋼の原料などの新しい供給網を整備することで、将来的なボトルネックを回避することができます。
BNEFアジア太平洋地域責任者のアリ・イザディのコメント：
「グリーンスチールへの需要シグナルをより強化することも極めて重要です。この点で政府の主導が期待されます。現在の日本の鉄鋼脱炭素化のインセンティブは、既存の高炉事業者に有利な構造となっています。これらのインセンティブ制度を見直すことで、より低コストでの排出削減を、日本の納税者の負担を抑えながら促進することができます。」
【本件に関する報道関係者お問い合わせ先】
ブルームバーグ広報代行：アシュトン・コンサルティング ac-bloomberg@ashton.jp
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