BNEFリポートより:電気自動車の販売台数は過去最高を記録も、 成長減速により気候変動の目標未達の恐れ

*本プレスリリースは、BloombergNEFが2024年6月12日(現地時間)に英語で発表を行ったプレスリリースを日本語に翻訳・再編集したものです。オリジナルのプレスリリースの正式言語は英語であり、この内容および解釈については下記の英語版が優先となります。英文オリジナルにつきましてはこちらのサイトをご参照ください。

 

  • ブルームバーグNEF(BNEF)が発表した調査リポート「電気自動車(EV)の長期見通し」によると、電動化技術の進歩とバッテリー価格の低下に伴い、全市場においてEVの導入は政策主導から消費者需要主導へと移行しています
  • BNEFのベースシナリオでは、2027年の乗用EVの販売台数は3,000万台を超え、2040年には年間7,300万台まで増加する見通しです
  • しかし、ネットゼロの軌道に乗るためには、一つを除くすべての車両セグメントで強力かつ慎重に構造化された政策支援が依然として必要です
  • BNEFのネットゼロ・シナリオによると、2050年までに全世界でゼロエミッション車を実現するには、2038年ごろまでに内燃機関車の販売を停止する必要があります
  • 経済移行シナリオでは、北欧諸国のみが2038年までに内燃機関車の全廃を達成します
  • 現在、今世紀半ばまでにネットゼロを達成する軌道に乗っているのは、道路交通のうち三輪車セグメントのみです

【ロンドン、ニューヨーク、2024年6月12日】ブルームバーグNEF(BNEF)の「電気自動車の長期見通し (EVO)」によると、短期的な見通しはまちまちであるものの、電気自動車(EV)の普及には依然として成長がみられます。今回のリポートによると、バッテリー価格の急速な低下、次世代バッテリー技術の進歩、内燃機関車と比較したEVの経済性向上が、世界規模でEVの長期的な成長を支え続けています。しかし、全世界の道路交通でネットゼロという目標を実現するための選択肢が、これまで以上に狭まっていることを報告しています。

本リポートでは、道路交通における二つのシナリオを提示しています。ベースケースである経済移行シナリオでは、EVの普及は現在の技術的・経済的動向に左右され、新たな政策介入はないものと仮定しています。一方、ネットゼロ・シナリオでは、2050年までに全世界の全ての自動車をゼロエミッション車にすると仮定しています。

経済移行シナリオでは、米国と欧州における規制変更や政治的変化により成長が鈍化し、一部の自動車メーカーがEV目標を延期しているにもかかわらず、世界的にはEV販売が増加し続けます。米国では、低価格モデルの不足と、大統領選挙を控えたEV市場の不安により、今年はEVの普及が鈍化しました。一方、欧州では、EU圏全体の燃費目標が2025年まで厳格化しないため、同地域で事業を展開する自動車メーカー各社は、EVの販売台数を大幅に増やさねばならないプレッシャーから解放されています。

また、EVの普及は、もはや裕福な国だけの現象ではありません。本リポートでは、タイ、インド、ブラジルなどで、地元の消費者をターゲットにした低価格のEVモデルが発売され、記録的な販売台数を達成していることも報告しています。EV市場で世界をリードしている中国は、群を抜いています。一部のEVセグメントに飽和の兆しが見え始め、経済見通しが厳しいにもかかわらず、世界最大のEV市場としての地位を維持するでしょう。

電動化の基盤技術は進歩し続け、バッテリー価格は低下が続いており、EVの普及はあらゆる市場において政策主導から消費者需要主導へと移行しています。経済移行シナリオでは、乗用EVの販売台数が2027年に3,000万台を超え、2040年には年間7,300万台にまで増加します。世界の自動車販売台数に占めるEVの割合は、2027年に33%、2040年には73%に達するでしょう。

図1:BNEFの経済移行シナリオにおける世界の長期電気乗用EVの販売台数の見通し(市場別)

また、BNEFは電動化が今や三輪車から大型トラックに至るまで、道路交通のあらゆるセグメントで急速に普及しつつあることも明らかにしています。新興国市場では、二輪車と三輪車の販売が引き続き増加しています。2040年までには、全世界の電動二輪車・三輪車の販売台数は、二輪車・三輪車の販売台数全体の90%を超えるでしょう。バン、トラック、バスをはじめとする商用車部門の脱炭素化はすでに始まっており、今後さらに加速する見込みです。全ての車両セグメントでEVの普及が急速に進むことで、これまでにない市場機会が生まれます。経済移行シナリオでは、全ての車両セグメントにおけるEV販売累積額が、2030年までに9兆ドル、2050年までに63兆ドルに達する可能性があります。2020年代末までに少なくとも350億ドルをバッテリーセルと関連部品の工場に投資する必要がありますが、各企業はこれを優に超える1,550億ドルの投資額をすでに計画しています。

こうした進展にもかかわらず、世界の道路交通は依然としてネットゼロの軌道には乗っていません。ネットゼロ・シナリオでは、2050年までに道路を走る自動車が100%電動化することを想定していますが、経済移行シナリオでは同年までの達成率が69%にとどまります。これは、現在の技術的・経済的動向だけでは、道路交通セクターをグローバルな気候変動対策目標達成の軌道に乗せるには不十分であり、引き続き強力な規制支援が必要であることを示しています。

現時点で、今世紀半ばまでに道路交通においてネットゼロ達成の軌道に乗っている車両セグメントは、三輪車のみです。一方、この目標達成から最も乖離(かいり)しているのは大型・中型車両です。電動車および水素燃料電池車は、2030年までに世界のトラック販売台数のわずか18%、2040年までに43%を占めるにすぎませんが、それでも業界にとっては大きな変化を示しています。

BNEF商用輸送部門統括のニコラス・ソロポロスの見解は次の通り:「トラックメーカーは、欧米の厳しい環境目標を背景に、急速な技術革新を遂げようとしています。その変化のスピードは業界にとって前例のないものになるでしょうが、パリ協定整合シナリオを達成するには、ゼロエミッション車の製造をさらに加速する必要があります

図2:EVの世界年間販売台数シェア:BNEFの経済移行シナリオとネットゼロ・シナリオ

ネットゼロ・シナリオによると、2050年までに全ての自動車をゼロエミッション車にするには、2038年ごろまでに内燃機関車の販売を終了する必要がある上、主要市場ではさらに先駆けて、2030年代初頭に内燃機関車の販売を終了する必要があります。経済移行シナリオでは、北欧諸国のみが2038年までに内燃機関車の全廃を達成します。今後さらに多くの国がネットゼロへの移行から価値を獲得するための産業戦略を実施するにつれ、気候変動対策目標がますます達成できなくなるリスクがあります。各国政府は、競合する優先事項を慎重に判断し、競争や手頃なEVの購入を阻むような政策を回避する必要があります。

BNEF電気自動車部門統括のアレクサンドラ・オドノバンの見解は以下の通り:「国内製造を擁護しようとして脱炭素化の加速を犠牲にしている各国政府は、何を優先しているのかについて極めて慎重に検討する必要があります。2050年までに道路交通ネットゼロを達成するのはまだ可能ですが、一段と迅速な進展が求められています

電気自動車の長期見通し」に関するその他の分析結果は、以下の通りです:

  • 世界の乗用EVの販売台数は伸び続けていますが、向こう数年間の伸び率は以前よりも明らかに減速しています。経済移行シナリオでのEVの販売台数は、2020年から2023年までの年間平均伸び率が61%だったのに対し、向こう4年間は21%となります。世界の乗用車新車販売台数に占めるEVのシェアは、2023年の17.8%から2027年には33%に急増します。2027年までにこの数値を上回るのは、中国(60%)と欧州(41%)のみです。ブラジルのEV販売台数は2027年までに5倍、インドでは3倍に増加します。
  • ネットゼロ・シナリオでは、一段と迅速な移行が必要です。EVは、2035年までに4億7,600万台、2040年までに7億2,200万台となり、自動車全体の45%を占めるようになります。ネットゼロ・シナリオの場合、2035年までに6億7,900万台、2040年までに11億台に増加します。
  • 内燃機関車の販売台数はピークを過ぎました。内燃機関車の販売台数は2017年にピークを迎え、BNEFの見通しでは2027年までにはそのピーク時に比べて29%減少します。BNEFの経済分析では、EVが道路輸送の脱炭素化において最も重要な手段だと示しています。とはいえ、特に燃費規制が厳格化しつつある市場では、ハイブリッド車が短期的に重要な役割を果たす可能性があります。BNEFの見通しによると、2030年におけるハイブリッド車の普及率は、市場によって5%から45%までに達します。
  • プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)が見直されつつあるものの、ネットゼロ移行においてPHEVが果たす役割の全容はまだ不透明です。特にPHEVの販売台数が急増している中国では、PHEVの平均航続距離が急速に伸びており、2023年には80kmに達しました。これも、PHEVの魅力を一段と高めている理由です。ただし、PHEVでは電気モードがどの程度頻繁に使われているかについては疑問が残ります。もしPHEVがバッテリー電気自動車(BEV)の販売に取って代わり、電動能力がフル活用されなければ、石油消費量と二酸化炭素排出量の両方が増加することになりかねません。
  • EVは内燃機関車よりも長い距離を走行しています。各国のEVの走行パターンに関するメタ分析によると、完全電気自動車は同等のガソリン車に比べて年間走行距離が長いことが分かっています。国によって大きなばらつきがあり、米国はEVの走行距離の方がガソリン車よりも短く、目立った外れ値となっています。
  • 電気大型トラックは、2030年までに大半のユースケースで経済的に実現可能になります。大型車両セグメントでは、バッテリー電気トラックの普及当初は、主に都市部で利用されます。しかし、長距離走行向け電気トラックの経済性が改善し、2030年頃にはディーゼルパワートレインの経済性に近づきます。燃料電池トラックは一部のユースケースや国々では一つの選択肢として存続していますが、今後の見通しは極めて不確実です。
  • 電池メーカーにとって、過剰生産能力は大きな問題です。2025年末までに計画されているリチウムイオン電池の生産能力は、その年に予想される世界電池需要1.5テラワット時の5倍以上です。BNEFの経済移行シナリオでは、リチウム電池の年間需要は急速に拡大し、2035年までに年間5.9テラワット時に迫ります。
  • リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池がEV市場を席巻しつつあります。LFPは技術の向上により、中国を中心に市場シェアが拡大しています。中国では、電池セル価格が今年に入ってから1キロワット時53ドルにまで急落しています。今回の見通しによると、今後2年以内に世界の乗用EV市場でLFPのシェアが50%を超えます。これに伴い、ニッケルやマンガンは最も圧力を受けるようになります。より安価な材料へのシフトに伴い、2025年までのニッケルとマンガンの消費量は、前回の見通しよりもニッケルが25%、マンガンが38%減少します。
  • EVによる石油需要の置換が急増し始めます。来年には電気自動車、電気トラック、電気バスの普及台数が8,300万台、電動二輪・三輪車が3億4,000万台となります。今後3年間で、あらゆる種類のEVと燃料電池車によって置き換えられる石油需要は現在の2倍以上となり、2027年までにはほぼ日量400万バレルに達します。これは2022年の日本の石油消費量をわずかに上回るほどの規模です。
  • 全世界で自動車が完全電動化した場合、米国の2023年における電気消費量の2倍に相当する電気を消費することになります。ネットゼロ・シナリオでは、2050年までに自動車の完全電動化を達成するには約8,313テラワット時の電力供給が必要となり、これは米国の2023年における電気消費量の2倍に相当します。電力需要が大幅に拡大する一方で、EVはスマートチャージを通じてエネルギーシステムの電化を支えることができます。グリッド(送配電系統)事業者は変動価格やその他さまざまな仕組みを適用して、EVの柔軟利用にインセンティブを与えることができます。
  • 拡大するEV需要に対応するには、今後10年間で充電産業が急速に成熟する必要があります。シナリオによっては、2050年までに充電インフラ、設置、保守のために1兆6,000億ドルから2兆5,000億ドルの累積投資が必要です。

電気自動車の長期見通し」の主な分析結果を記載した包括的なエグゼクティブ・サマリーおよび詳細は、リンクをご参照ください。

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