ブルームバーグNEFリサーチ: リチウムイオン電池は長期エネルギー貯蔵の新技術との競争に直面することに 長期エネルギー貯蔵技術は、その導入計画が進む中でコスト分析が行えるまでに成熟している、と本調査が指摘

*本プレスリリースは、BloombergNEFが2024年5月30日(現地時間)に英語で発表を行ったプレスリリースを日本語に翻訳・再編集したものです。オリジナルのプレスリリースの正式言語は英語であり、この内容および解釈については下記の英語版が優先となります。英文オリジナルにつきましてはこちらのサイトをご参照ください。

 

リチウムイオン電池は長期エネルギー貯蔵の新技術との競争に直面することに

 

【ニューヨーク/サンフランシスコ、2024年5月30日】長期エネルギー貯蔵(LDES)は、いくつかの市場においてリチウムイオン電池に取って代わる日が近づきつつあるとともに脱炭素化に向けた計画がより野心的となる中で、世界中で急速に注目を集めています。

ブルームバーグNEF(BNEF)が初めて実施した「長期エネルギー貯蔵コスト調査」によると、ほとんどの長期エネルギー貯蔵技術はまだ初期段階にあり、リチウムイオン電池に比べてコスト高となっている一方で、より長期のエネルギー貯蔵をするコストが一部はすでに、あるいはすぐに下回る段階にあります。

BNEFはこのリポートで、7種類のLDES技術グループと20種類の技術タイプを調査しました。その中で、最も安価な技術は、8時間以上のエネルギー貯蔵において、リチウムイオン電池よりも安価であることが明らかになりました。例えば、蓄熱技術と圧縮空気エネルギー貯蔵技術の平均設備投資額は、1キロワット時(kWh)当たりそれぞれ232ドル、293ドルとなっています(図1)。これに対して、一般的により短期の貯蔵に適している4時間容量のリチウムイオン電池は、2023年における平均設備投資額が1kWh当たり304ドルとなっています。

いわゆるフロー電池と圧縮空気エネルギー貯蔵技術が、これまで最も商用的な成功を収めており、将来的にはさらなるコスト削減につながる可能性があります。LDES技術のコスト削減率は、主に主要地域における普及拡大や市場導入に向けた発展の様子によって大きく左右されます。

エネルギー貯蔵技術が化石燃料発電の代替となり、出力が不安定となる再生可能エネルギーへの対応として使用が見込まれるため、BNEFでは、エネルギー貯蔵プロジェクトが充放電に要する標準的な時間が今後増加していくとみています。LDES技術は、電力変換容量を増やさずにエネルギー貯蔵量を増やすことができるため、リチウムイオン電池の競合技術とみなされています。とはいえ、向こう10年間でリチウムイオン電池のコスト削減と同じ速さでLDESのコストも低下するとは考えにくいでしょう。これはリチウムイオン電池が道路交通・電力の両分野で幅広く使用されており、これらの分野での需要がリチウムイオン電池のコストを押し下げていくためです。

 

図1:設置済みエネルギー貯蔵システムの平均設備投資額とそのコスト幅(技術別、2018-2024 年*)

図1:設置済みエネルギー貯蔵システムの平均設備投資額とそのコスト幅(技術別、2018-2024 年*)
出所:ブルームバーグNEF。注:CAES=圧縮空気エネルギー貯蔵。CGES=圧縮ガスエネルギー貯蔵。PHS=揚水式電力貯蔵。コストは、2018年から2024年までに設置済みのプロジェクトおよび1ー20時間容量のコスト。*新規揚水発電のエネルギー貯蔵コストは、2018 年から2030 年までに設置済みのプロジェクトのコスト。リチウムイオン電池のコストは、2023 年の4 時間システムの数値で、世界のコスト幅は中国と米国の幅。

 

現在、中国は圧縮空気エネルギー貯蔵、フロー電池、蓄熱システムなどの確立された技術において、費用対効果の面で主導的な地位にあります。中国以外の市場での平均設備投資額は、中国のものと比べ、圧縮空気貯蔵では68%、フロー電池では66%、蓄熱技術では54%高くなっています。

ブルームバーグNEF のクリーンエネルギー・スペシャリスト兼当リポートの共同執筆者、イーイー・ザオの見解は次の通り:「中国ではLDES 技術の普及が非常に進んでいるため、他地域との間で大きなコスト格差が生まれています。中国以外の国々ではLDES 技術の商業化がまだ初期段階にとどまっている一方で、中国では優遇政策によって、すでにギガワット時規模のプロジェクトの開発が進んでいます。これは特に圧縮空気エネルギー貯蔵とフロー電池の分野で顕著で、中国は過去2 年間に新規プロジェクトの規模における記録を更新しています。中国のLDES 導入の速さは驚異的です」

中国には低コスト環境が整っているものの、国内のLDES 技術は、同国の世界で最も安価となっているリチウムイオン電池との競争には苦戦することも考えられます。現時点での1 プロジェクト当たりの資本コスト面で、リチウムイオン電池の競争力を上回る可能性があるのは、自然界における空洞を活用した一部の圧縮空気貯蔵技術だけです。

LDES技術がリチウムイオン電池と競合できる市場としては、リチウムイオン電池の価格が高い中国以外になる可能性が高いでしょう。

ブルームバーグNEF のエネルギー貯蔵部門シニア・アソシエート兼当リポートの共同執筆者、エベリナ・ストイコウの見解は次の通り:「中国以外のLDES 技術のコストは高くなっていますが、米国とヨーロッパには域内の業界に投資し、技術革新と導入を飛躍させる機会があります。中国以外の市場では、フロー電池、圧縮空気、圧縮ガス、蓄熱、重力、新規揚水発電などの技術タイプを含めて、中国と比べると幅広い技術開発が進められています。これらの地域では、野心的なクリーンエネルギー目標、高いリチウムイオン電池コスト、リチウムに依存しない代替技術の開発に向けた努力を理由に、注目が集められています」

エネルギー貯蔵期間、プロジェクト規模、導入される市場といった全てがLDES の設備投資額に大きく影響します。例えば、重力エネルギー貯蔵システムは、充電時に重りを上げ、放電時に制御しながら落下させます。この平均設備投資額は1kWh 当たり643 ドルで最も高価となります。

技術進歩が継続し、導入実績が増えれば、これらの選択肢の長期間貯蔵に向けた実現可能性と性能がさらに向上していくでしょう。早期導入や商用化の促進には、優遇政策や支援体制が不可欠です。

算出法
BNEFの「長期エネルギー貯蔵コスト調査」では、長期エネルギー貯蔵(LDES)を、6時間以上の貯蔵時間を提供できるエネルギー貯蔵と定義しています。平均設備投資額は、95社が提供された278データポイントから算出され、1時間から20時間の貯蔵期間を持ち、および2018年から2024年に設置された技術の合計です。従来型の揚水発電や、水素などの化学由来のLDES技術はこの分析から除外しています。提出データは集計の上、匿名化されています。

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