ブルームバーグNEF:日本はエネルギー自給率を強化しつつ、2050年までのネットゼロ達成が可能
- 日本はアンモニア・石炭混焼のような高コストの技術に頼らず、エネルギー自給率を強化しながら、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることが可能
- 太陽光、風力、電気自動車(EV)などの成熟した低炭素技術の導入を加速することが、日本が2030年の排出削減目標を達成する上で最も安価な方法
- ブルームバーグNEFのコストベースのモデルによると、日本はクリーン水素への依存を最小限に抑え、水素の輸入や国内生産によるコストを回避することが可能
- 日本がネットゼロ実現に向けた軌道を進み続けるには、炭素税の引き上げなど、カーボンプライシングの仕組みの厳格化が必要
【東京-2023年7月25日】ブルームバーグのリサーチ部門、ブルームバーグNEF(BNEF)が本日発表したリポート「長期エネルギー見通し(NEO):日本版」によると、日本では2050年までにネットゼロ経済に移行するのに伴い、少なくとも6.7兆ドルに上る投資機会が生じることが明らかになりました。同リポートでは、日本のエネルギーシステムに関する二つのシナリオと、日本の脱炭素化への移行に伴う機会と課題を詳述しています。ベースシナリオの「経済移行シナリオ」は経済性主導の移行を描いたもので、2100年までに世界の気温が2.6℃上昇すると想定しています。もう一つの「ネットゼロ・シナリオ」は、排出量超過や実証されていない技術に依存することもなく、2050年までに排出量のネットゼロ実現を想定したシナリオです。
電力セクターの脱炭素化を成功させることが日本の移行を加速する鍵
日本最大の排出源は電力部門です。日本は、再生可能エネルギーの発電容量の拡大ペースが鈍化し、原子力発電所の再稼働も遅れているため、クリーン発電で他のG7諸国に後れを取っています。BNEFの分析によると、太陽光発電と風力発電の導入を最大化させ、蓄電池や火力発電所における二酸化炭素回収・貯留(CCS)も導入し、既存の原子力発電所を再稼働させることが、電力供給を脱炭素化する最も安価な方法です。日本は豊富な地熱資源を活用することもできます。
図1:日本の技術別発電容量
出所:ブルームバーグNEF
注:CCGTはコンバインドサイクル発電、CCSは二酸化炭素回収・貯留、PVは太陽光発電を表します。
BNEFのネットゼロ・シナリオは、世界の気温上昇を2℃未満に抑えつつ、2050年までに日本がネットゼロに到達する道筋を描いたものです。このシナリオでは、風力発電と太陽光発電の総設備容量は2050年までに689ギガワットに達し、2021年時点の81ギガワットの8倍以上になる見通しです。風力発電と太陽光発電は、ネットゼロ・シナリオで2050年に供給される電力の79%を占め、原子力発電は11%を占める見込みです。残りの需要は、水力、地熱、およびCCS付き火力発電で賄われると考えられます。BNEFのベースシナリオである経済移行シナリオでも、最小コスト電力系統モデリングによると太陽光と風力が主流の電力源となり、2050年には発電量の62%を占める見込みです。
経済移行シナリオでは、エネルギー需給への投資は2022年から2050年にかけて累計3.2兆ドル、年間平均約1,150億ドルに達すると考えられます。BNEFのネットゼロ・シナリオによると、日本がネットゼロ実現に向けた軌道を維持するには、同期間に年間平均2,390億ドル(予想国内総生産の約3.8%)、つまり経済移行シナリオの2倍以上の投資を行う必要があります。化石燃料ベース電力への総投資額の見通しは、経済移行シナリオの6,090億ドルからネットゼロ・シナリオでは3,590億ドルに減少します。ネットゼロ・シナリオで引き続き残る化石燃料の使用による排出量を削減するには、CCS技術に3,150億ドル投資する必要があります。いずれのシナリオにおいても、EVの販売がエネルギー需要への投資において最大の割合を占めます。ネットゼロ・シナリオでは、EVの導入に3.8兆ドルが費やされます。
日本はエネルギー自給率の強化と排出量の削減の両立が可能
BNEF日本・韓国市場調査部門統括、デイビッド・カンの見解:「日本が2010年から2022年にかけて化石燃料の輸入に費やした金額は1兆8,000億ドルに上り、GDPの年間平均額の3%以上に相当します。日本がこの支出の一部を、太陽光、風力、EVなどの成熟したクリーン技術の導入に振り向けることができれば、排出量を削減し、エネルギー自給率を強化すると同時に、より多くの経済的機会を国内に創出することができます」
図2:日本のエネルギー需給への投資(2022-2050年)
出所:ブルームバーグNEF
注:低炭素発電への投資の大部分には風力と太陽光が含まれます。
日本は成熟した再生可能エネルギー技術の導入を加速し、手厚いが非効率な水素補助金を改革すべき
日本がエネルギー移行を加速させるには、電力系統連系に関する透明性を高め、許認可手続きを短縮・簡素化することにより、再生可能エネルギー事業者が直面するハードルを下げる必要があります。また、土地(洋上風力発電の場合は海域)へのアクセスや系統連系を保証したリバースオークションを自治体主導で取りまとめることも、再生可能エネルギーの導入を加速させます。
BNEF日本シニア・アソシエイト、菊間一柊の見解:「化石燃料による発電は現在、日本の発電量の70%以上を占めています。既存の石炭火力発電所をアンモニア混焼用に改修するといった、コストのかかる実証されていないアプローチを追求するよりも、日本は地熱、太陽光、風力の導入を加速した方がよいでしょう」
図3:日本の需要別燃料消費量、ネットゼロ・シナリオ
出所:ブルームバーグNEF
注:ETSは経済移行シナリオを表します。
日本のこれまでの水素政策では、燃料電池乗用車や家庭用燃料電池コージェネレーション(熱電併給)システムなどの用途に手厚い補助金が支給されてきました。しかし、乗用車や住宅を脱炭素化するには、より安価で効果的な方法があります。日本政府の2050年目標では年間2,000万トンの水素が必要とされていますが、BNEFのネットゼロ・シナリオで必要とされるのは700万トン強に過ぎません。
BNEF日本アソシエート、品川都志也の見解:「日本は地理的にクリーン水素の供給が限られるため、政府はクリーン水素の利用を脱炭素化に最も効果的なセクターに優先すべきです。日本では重工業の脱炭素化を進めるには、水素よりもCCSに頼る必要がありそうですが、化石燃料に対する現在の炭素税は二酸化炭素1トン当たり289円(2ドル)で、CCSへの投資を呼び込むには低すぎます」
本リポートは、ブルームバーグNEFが世界全体を対象とした「長期エネルギー見通し(NEO)」で示した分析結果をより深く掘り下げた地域別・セクター別リポートシリーズの一環で、地域別リポートには欧州版、オーストラリア版、中国版、日本版、米国版、インド版があります。リポートの要約はabout.bnef.com/new-energy-outlook-seriesでご覧いただけます
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