ブルームバーグNEF「日本版長期エネルギー見通し(NEO):2024」によると、 ネットゼロの軌道に乗せるためには、今後10年間で約320兆円の投資が必要

【東京、2024年10月1日】-ブルームバーグのリサーチ部門であるブルームバーグNEF(BNEF)が、今年5月に発表したグローバル版の「長期エネルギー見通し(NEO):2024」に続き発表した「日本版長期エネルギー見通し(NEO):2024」によると、日本が2050年までにネットゼロを達成するためには、今後10年間で約320兆円(2.2兆ドル)の投資が必要となることが明らかになりました。同レポートによると、化石燃料への依存度が引き続き高い日本では、アンモニア・石炭混焼のような高コストの技術に頼らず、太陽光や風力発電の導入を加速し、水素や二酸化炭素回収・貯留(CCS)等の新興技術を成熟化させる必要があります。

NEOには、「ネットゼロ・シナリオ(NZS)」と、ベースケースの「経済移行シナリオ(ETS)」の2種類の気候変動シナリオが用意されており、政策決定、各国の気候変動対策への取り組み、企業や金融機関の低炭素移行戦略においてご活用いただけるように設計されています。

ETSは、現在の政策に基づいて経済性主導の移行を描いたもので、2100年までに世界の気温が2.6℃上昇すると想定しています。一方でNZSは、実証されていない技術に依存することもなく、2050年までにネットゼロ経済の実現を想定したシナリオになります。

日本では、エネルギーセキュリティの強化と排出削減の両立が達成可能

図1:日本における燃料・技術別CO2排出削減量 ー ネットゼロ・シナリオと移行なしシナリオ


出典:ブルームバーグNEF。注釈:CCSは二酸化炭素回収・貯留。

日本において、石油、ガス、および石炭の需要は、既にピークに超えています。BNEFのNZSによると、2025年から化石燃料の需要は急激に減少します。電力、交通、産業、および建物の各部門のエネルギー移行は、脱炭素化に利用できる技術によって異なる速度で進みますが、どのセクターにおいても排出量が急激な減少を見せることになります。

電力部門におけるゼロカーボン電源への切り替えや、運輸部門における電気自動車(EV)等の電化に加え、CCSや水素等の新興技術等の普及もネットゼロ達成に必要不可欠な役割を担っています。NZSでは、何も移行が発生しない場合と比較しCCSは、CO2排出量を21%削減し、電力部門および産業部門において排出削減の重要な役割を担うことになります。一方で水素は、全体での貢献量はCCSよりも少ないものの、運輸部門や産業部門を完全に脱炭素化するには欠かせない技術になります。なお、現在の経済主導の道筋であるETSでは、コスト高により水素やCCS等の新興技術の導入は限定的になっています。

日本の2030年気候変動目標は、BNEFのETSより野心的であるがNZSより低い

図2:エネルギー起源CO2における排出削減目標:日本政府の「国が決定する貢献(NDC)」、BNEFによる経済移行シナリオおよびネットゼロ・シナリオ


出典:ブルームバーグNEF、世界資源研究所(WRI)のオンラインサイトCAITにおける温室効果ガスデータ、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)掲載の日本版「国が決定する貢献(NDC)」、国際通貨基金におけるGDPデータ。注:NDCは国が決定する貢献、ETSは経済移行シナリオ、NZSはネットゼロ・シナリオ。日本経済全体にわたる、無条件での2030年温室効果ガス目標を適用している。

日本が設定している気候変動目標である「国が決定する貢献(NDC)」では、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を掲げていますが、当レポートには、現状の政策下でエネルギー移行対策を展開した場合、2030年の目標が未達になるリスクが示されています。これは、排出削減目標の46%に対し、ETSでは、2030年時点での排出量削減は30%にとどまることを意味しています。一方で、NZSでは、NDC目標である46%を上回り、2013年の水準に対して55%の排出削減の達成が可能と見込んでいます。本レポート執筆者であるBNEF日本脱炭素市場シニアアナリストの小川滋は、「2050年までのネットゼロ経済に必要な排出削減の達成に残された時間は、迫りつつあると言え、NZSで想定される気温上昇1.75℃の道筋に乗せるために、現行の政策を上回る水準の移行を加速させる、協調した政策措置を講じることが必要」、と見解を述べています。

日本では、現状比で、年間あたり3倍以上の新規再生可能エネルギー設備容量の導入が必要

NZSでは、日本の化石燃料消費量は減少していき、化石燃料の残余排出量を削減するために、CCSが活用されていくことになります。電力部門に焦点を当てると、太陽光、風力、蓄電池の導入が加速的に進み、化石燃料を使用する火力発電所への依存度は低下します。NZSでは、2020年代後半に年間平均で27GWの増設が必要になります。これは過去10年間の年間平均導入容量(8GW)の3.4倍に相当することを意味しています。

図3:日本における風力・太陽光・蓄電池の平均年間容量増設 ― 経済移行シナリオとネットゼロ・シナリオ


出典:ブルームバーグNEF。注:ETSは経済移行シナリオ。NZSはネットゼロ・シナリオ。

ネットゼロの達成には、今後30年間で約1,100兆円の脱炭素関連投資が必要になる

図4:2023年から2050年までの世界のエネルギー投資:実績及び2023-2050年における年間必要投資額 ー ネットゼロ・シナリオ


出典:ブルームバーグNEF。注:2023年の数値は実数。化石燃料プロセスへの投資、電力および従来エネルギーへの投資、および内燃機関車への支出を除外します。これらは、BNEFのEnergy Transition Investment Trends reportで2023年の投資額に含まれていません。CCSは二酸化炭素回収・貯留。

本レポートの共同執筆者であるBNEF日本再生可能エネルギーアナリストの太田瑚己奈は、「日本がネットゼロを達成するためには、再生可能エネルギーへの追加投資のみならず、2030年までの急速な投資拡大が必要不可欠である」、と述べています。日本政府では、2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロの実現に向け、10年間(2023-2032年)で150兆円を超える脱炭素投資を進めることを表明しています。しかしながら、NZSでは、更なる投資拡大が必要で、今後10年間では約320兆円(2.2兆ドル)が必要であり、2050年までに1,100兆円(7.7兆ドル)が必要となることが示されています。

日本版を含む各種「長期エネルギー見通し(NEO):2024」は、こちらで公開されています。なお、ブルームバーグNEFのサービスをご利用のお客さまは、https://about.bnef.com/ およびブルームバーグ ターミナルでリポート全文を閲覧いただけます。

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